Blender 5.2.1 と公式デモファイル「Classroom」(960×540)で5つの設定を1つずつ変えて測ると、いちばん効いたのは CPUからGPUへの切り替えだった(RTX 4070 Ti SUPER の OptiX は Core i7-11700F の約26分の1の時間)。次に効いたのは サンプル数を下げてデノイズを使う組み合わせで、64サンプル+デノイズは300サンプル(デノイズなし)より36%短く、基準画像との差も小さかった。バウンス数を減らす効果は、このシーンでは5%にとどまった。
Blenderでレンダリングボタンを押した瞬間、PCがフリーズしたように重くなった経験はないだろうか。原因の多くは初期設定のまま使っていることにある。本記事では、よく勧められる5つの設定を同じシーン・同じPCで1つずつ変え、何秒縮んで、画がどれだけ変わるかを測った。
なぜBlenderのレンダリングはデフォルトだと遅いのか?
最大の原因は「CPU計算のまま使っている」こと。Blender 5.2.1 の新しいシーンでも、Cyclesの計算デバイスの初期値はCPUだった。
Cyclesは光の経路を1本1本シミュレートする「パストレーシング」方式を採用し、計算量が膨大になる。当サイトの検証機では、同じシーンをGPU(OptiX)に切り替えるだけで、CPUの94.8秒が3.7秒になった(下の表)。まずここを直すだけで体感が大きく変わる。
CyclesとEeveeのどちらを選ぶべきか?
フォトリアルな静止画・実写合成はCycles、アニメ調・速度重視はEeveeを選ぶ。
| エンジン | メリット | 注意点 |
|---|---|---|
| Cycles | 圧倒的な写実性・正確な光の反射 | 計算負荷が高い・ノイズが出やすい |
| Eevee(Next) | リアルタイムプレビュー・アニメ調 | 物理的な正確性に欠ける |
Blender 4.2以降はEeveeが「Eevee Next」に刷新された。本記事ではCyclesの高速化に絞って解説する。
どうやって測ったのか?
Blender公式のデモファイル「Classroom」を、設定を1つだけ変えて2回ずつ描き、時間と画を比べた。
- 検証機:Core i7-11700F/RTX 4070 Ti SUPER(VRAM 16GB)/メモリ 32GB・Blender 5.2.1 LTS(画面なしで実行)
- シーン:Blender公式のデモファイル「Classroom」(Christophe Seux・CC0)。解像度は半分の960×540(CPUの条件が数分で終わるように)
- 基準の設定:GPU(OptiX)・シーンのまま(300サンプル固定・デノイズなし・最大バウンス8)。ここから1つだけ変えた
- 時間:レンダリングの開始から終了まで(シーンの同期を含む)。同じ条件の2回の差はどれも3%以内
- 画の差:2048サンプルで描いた基準画像との差を PSNR(dB)で表した。大きいほど基準に近い(同じ条件で2回描いた画どうしは95.7dB)
測る前に予測を書いておき、2つが外れた(しきい値0.01とデノイズの時間)。外れも下に書いている。
| 設定 | 条件 | 時間 | 基準比 | PSNR |
|---|---|---|---|---|
| 基準 | GPU(OptiX)・300サンプル | 3.70秒 | 1.00 | 33.4dB |
| ① デバイス | CPU(Core i7-11700F) | 94.82秒 | 25.6倍 | 33.4dB |
| ① デバイス | GPU(CUDA) | 5.45秒 | 1.47倍 | 33.4dB |
| ② しきい値 | 適応サンプリング 0.01 | 3.83秒 | 1.04倍 | 33.4dB |
| ② しきい値 | 0.05 | 2.30秒 | 0.62倍 | 29.3dB |
| ② しきい値 | 0.1 | 1.74秒 | 0.47倍 | 26.3dB |
| ③ デノイズ | 300サンプル+デノイズ | 4.51秒 | 1.22倍 | 38.7dB |
| ③ デノイズ | 64サンプル+デノイズ | 2.36秒 | 0.64倍 | 36.0dB |
| ③ デノイズ | 64サンプル・デノイズなし | 1.65秒 | 0.44倍 | 26.9dB |
| ④ バウンス | 最大4 | 3.68秒 | 0.99倍 | 33.4dB |
| ④ バウンス | 最大2 | 3.53秒 | 0.95倍 | 31.8dB |
| ⑤ 持続データ | 5フレーム連続・オフ→オン | 18.12秒→14.97秒 | 0.83倍 | — |
レンダリングを速くする5つの設定とは?
効いた順に並べると「CPU→GPU」「サンプル数を下げてデノイズ」「持続データ(アニメーション)」。バウンス数は、このシーンではほとんど効かなかった。Blender 5.2.1で確かめた。
1. デバイス設定:CPUからGPUへ切り替える
NVIDIA RTX系なら「OptiX」、その他のNVIDIAは「CUDA」、AMD製GPUは「HIP」を選択。レンダープロパティの「Device」を「GPU Compute」に変更する。
当サイトの検証機では、CPUの94.82秒に対してOptiXは3.70秒(約26分の1)、CUDAは5.45秒だった。同じRTXのGPUでも、OptiXのほうがCUDAより約3割短い。基準画像とのPSNRはどれも33.4dBで同じだったが、画どうしを直接比べると、ノイズの出方がわずかに違う(CPUとOptiXの画どうしは49.7dB、CUDAとOptiXは52.6dB。同じ条件で2回描いた画どうしは81〜96dB)。
設定を変えたら、1枚描いて時間が縮んだかを確かめる。今回の測定では、毎回Cyclesのログに「OPTIX」とGPUの名前が出ていることを確かめた。
グラフィックボードの項目が表示されない場合
専用GPUが搭載されていないか、ドライバが古い可能性がある。Blenderの公式の動作環境では、GPUは最低VRAM 2GB・推奨8GBとされている。買い替えを検討する段階ならRTX 5070 Ti搭載BTOの選び方で、公開ベンチマークをもとにレンダリング性能を比較している。
2. サンプル数を減らしてノイズしきい値を活用する
Blender 5.2.1の新しいシーンは、最大サンプル数4096・適応サンプリング(Noise Threshold 0.01)が初期値でオンになっている。適応サンプリングは、十分にノイズが減った部分の計算を打ち切る仕組みだ(公式マニュアル)。
ただし、しきい値0.01では速くならなかった。300サンプル固定の3.70秒に対して3.83秒と、わずかに遅い。このシーンでは0.01に届く前に300サンプルの上限に当たる画素が多かったとみられる。しきい値を0.05にすると2.30秒(38%短縮)、0.1で1.74秒(53%短縮)になったが、PSNRはそれぞれ29.3dB・26.3dBまで下がり、ノイズが目に見えて増えた。しきい値だけを大きくするより、次のデノイズと組み合わせたほうが画を保ちやすい。
3. デノイザー(OIDN)で画質を補完する
少ないサンプルで発生したノイズはデノイザーで消す。Blender 5.2.1の新しいシーンでは、デノイズ(OpenImageDenoise)は初期値でオンだが、「Use GPU」はオフ(CPUで処理)になっていた。公式マニュアルは、GPUでのデノイズはCPUより大幅に速いが、GPUのメモリを余分に使うとしている。今回はGPUでデノイズした(Cyclesのログに「Denoising on: NVIDIA GeForce RTX 4070 Ti SUPER (OptiX)」「Type: OpenImageDenoise」と出ることを確かめた)。
64サンプル+デノイズは2.36秒で、300サンプル・デノイズなし(3.70秒)より36%短く、PSNRも36.0dBと高かった。一方、300サンプルにデノイズを足すと、PSNRは38.7dBまで上がったが時間は22%(約0.8秒)増えた。ログのデノイズの処理時間は約0.2秒で、残りはデノイズの準備などに使われたとみられる(内訳は確かめていない)。NVIDIAのGPUではOptiXのデノイザーも選べる(今回は測っていない)。

同じ部分を比べると、64サンプル(①)は全体がざらつき、デノイズ(②)でざらつきは消える。ただし机の木目はややなめらかになった。PSNRで測れるのは基準画像との差だけで、細かい質感がどれだけ残るかは用途ごとに目で確かめたい。
4. ライトパスのバウンス数を制限する
Blender 5.2.1の新しいシーンのMax Bouncesは「12」(拡散4・光沢4・透過12)。公式マニュアルは、最高画質には最大値がよいが、実際には下げると速くなる場合があるとしている。
Classroomはもともと最大8(拡散2・光沢3・透過6)と少なめに設定されたシーンで、最大4にしても時間は変わらず(3.68秒)、最大2で5%短縮(3.53秒)にとどまった。最大2では間接光が減って画面全体が少し暗くなり、PSNRも31.8dBに下がった。初期値の12のまま使っているシーンでは効き方が違う可能性があるので、下げるときは画の明るさを見比べたい。なお、公式マニュアルによると、Reflective/Refractive Causticsのチェックを外すと、コースティクスが原因のノイズを抑えられる(このシーンでは測っていない)。
5. アニメーション向け:持続データ(Persistent Data)を有効にする
「Performance」タブの「Persistent Data」をオンにすると、レンダリング後もシーンのデータをメモリに残し、再レンダリングやアニメーションのレンダリングが速くなる。代わりにメモリの使用量が増える(公式マニュアル)。
5フレームを続けて描くと、オフでは18.12秒、オンでは14.97秒(17%短縮)。1フレーム目はどちらも約3.7秒で、2フレーム目以降の1フレームあたりが3.60秒から2.83秒(21%短縮)になった。フレーム数が多いアニメーションほど差が積み上がる。
シーンが重すぎる場合はどう対処すればいい?
設定変更で追いつかない重いシーンは、モデリング段階での構造見直しが必要になる。
同じオブジェクトを大量配置するときはリンク複製(Alt+D)を使う。メッシュのデータを共有するので、メモリの消費を抑えられる。遠景の小物に4Kテクスチャを使うのもメモリの浪費で、1024px以下にリサイズするとメモリを節約できる。Blender 5.2のテクスチャキャッシュでVRAMがどれだけ減るかはテクスチャキャッシュの実測で測っている。
新しい版に上げたら確かめたいこと
Blender 5.2.1を初期設定で起動し(ユーザー設定を読まない --factory-startup)、新しいシーンの設定値を読み出して確かめた。古いファイルを開いたときは、そのファイルに保存された設定が使われる。
- デバイス:初期値はCPU。PreferencesでGPUを選び、レンダープロパティの「Device」をGPU Computeにする
- デノイズ:初期値でオン(OpenImageDenoise)。ただし「Use GPU」はオフ
- サンプル数:最大4096・適応サンプリング(0.01)がオン
どの版に上げるかで迷っている場合はBlender 3.6・4.2は旧LTS入り|4.5と5.2のどちらへ上げるかも参考にしてほしい。
まとめ:設定を整えてトライ&エラーの回数を増やす
今回のシーンでは、CPU→GPUで約26分の1、64サンプル+デノイズで300サンプルより36%短縮、持続データでアニメーションの2フレーム目以降が21%短縮になった。バウンス数としきい値は、画の変化と引き換えになる。レンダリング時間を縮めると、ライティングやマテリアルをこまめに修正できるようになり、作品のクオリティが上がる。設定を整えたら、Blender 4.x完全入門でモデリングから仕上げまでの全工程を確認してほしい。

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