Substance 3D Painter & Maya連携ガイド2025:ACES対応と失敗しないPBRワークフロー
ハイエンドな映像制作やゲーム開発を目指す3DCGアーティスト向けに執筆されています。特に「物理ベースレンダリング(PBR)」の理論的背景と、実践的なトラブルシューティングに重点を置いています。
1. 制作環境と「パイプライン思考」の重要性
3DCG制作は単なる「絵作り」ではなく、エンジニアリングに近い領域へと進化しています。モデリングの段階でUVやマテリアルIDをどう設計するかが、後のテクスチャリング効率を決定づけます。
特に初心者が陥りやすいのが、アプリケーション間でのデータの不整合です。本記事では、作成したアセット(今回は「吸い殻と灰皿」を例にします)を、データ損失なく統合するワークフローを提示します。
推奨されるPCスペック環境
Substance Painterでの4Kテクスチャ作業や、Maya/Arnoldでのレンダリングには、高いGPU性能とメモリが求められます。作業が重いと感じる場合は、以下のスペックを満たすBTOパソコンの導入を検討してください。
クリエイター推奨スペック(2025年基準)
- GPU: NVIDIA GeForce RTX 4070 Ti Super 以上(VRAM 16GB推奨)
- CPU: Intel Core i7-14700K / AMD Ryzen 9 7900X
- RAM: 64GB(32GBは最低ライン)
- SSD: NVMe Gen4 1TB以上(作業ファイルとキャッシュ用)
特にVRAM容量は、Substance Painterのレイヤー数やUDIM使用時の安定性に直結します。プロジェクトの複雑化に伴い、16GB以上を強く推奨します。
ベイク処理やレンダリングの待ち時間が1日30分短縮されれば、月間で約10時間の作業時間が創出されます。これは年間120時間、つまり丸5日分の生産性向上に相当します。
2. PBR(物理ベースレンダリング)の基礎理論
作業を始める前に、PBRの鉄則を理解しましょう。「色を塗る」のではなく、物理特性を定義するのがPBRです。
- 木、プラスチック、セラミックなど
- 反射光は常に白色(無彩色)
- Metallic値は 0 固定
- Base Colorが物体の色を決定
- 金、銀、鉄、銅など
- 反射光に色が付く(有彩色)
- Metallic値は 1 固定
- Base Colorが反射色を決定
Metallicの値は原則 0 か 1 の二値です。中間の値(0.5など)は、錆や埃が混ざった「遷移状態」以外では避けるのがセオリーです。なんとなく 0.3 くらいという設定は、物理的に正しくありません。
3. Mayaでのプレプロダクションとメッシュ準備
ハードエッジとUVシームの黄金ルール
ノーマルマップのベイクエラーを防ぐため、「ハードエッジには必ずUVの切れ目(シーム)を入れる」というルールを徹底してください。
角度が鋭い部分(例:90度の角)をハードエッジに設定します(Maya: Mesh Display > Soften/Harden Edge)。
ハードエッジと同じ位置にUVシームを配置します。これにより法線情報の矛盾を回避できます。
UV Editorで「Display > UV Shell」を有効にし、ハードエッジとシームが一致しているか確認します。
マテリアルIDの戦略的活用
「紙部分」と「フィルター部分」など、質感が異なる箇所にはMaya側で仮のマテリアル(色分け)を割り当てておきます。これをSubstance Painterで「IDマップ」としてベイクすることで、マスク作成を一瞬で完了できます。
paper_mat = cmds.shadingNode(‘lambert’, asShader=True)
cmds.setAttr(paper_mat + ‘.color’, 1, 0, 0, type=’double3′) # 赤
filter_mat = cmds.shadingNode(‘lambert’, asShader=True)
cmds.setAttr(filter_mat + ‘.color’, 0, 0, 1, type=’double3′) # 青
4. Substance Painter設定とACESワークフロー
プロジェクト作成時、最も重要なのがカラー設定です。従来のsRGBではなく、映画業界標準のACES(Academy Color Encoding System)を採用します。
なぜACESが必要なのか?
| 比較項目 | sRGB(従来型) | ACES(推奨) |
|---|---|---|
| 色域 | 狭い(インターネット向け) | 広い(映画制作レベル) |
| 一貫性 | アプリ間で色がズレやすい | 完全に一致(WYSIWYG) |
| HDR対応 | 限定的 | 完全対応 |
| 業界標準 | Web、ゲーム | 映画、VFX、ハイエンドゲーム |
Substance PainterでEdit > Settings > Color Managementを開きます。
OpenColorIO configurationにMaya付属のACES configファイル(通常はC:\Program Files\Autodesk\Maya2025\resources\OCIO-configs\Maya2022-default\config.ocio)を指定します。
これにより、PainterのビューポートとMayaのArnoldレンダリング結果の色味が完全に一致します。
ベイク処理(Baking)の実行
スマートマテリアルを機能させるために、各種メッシュマップを生成します。ハイポリモデルがない場合でも、Use Low Poly Mesh as High Polyにチェックを入れることで、曲率(Curvature)やAOを計算可能です。
- Output Size: 4096×4096(最終的にダウンサンプリング可)
- Anti-Aliasing: 4x SubSampling
- Match: By Mesh Name(複数オブジェクトの場合)
5. テクスチャのエクスポートとチャンネルパッキング
ゲームエンジンやArnold用に、メモリ効率の良い「チャンネルパッキング」を行います。一般的にはORM(Occlusion, Roughness, Metallic)構成が推奨されます。
R Channel : Ambient Occlusion (AO)
G Channel : Roughness
B Channel : Metallic
Alpha : (未使用 or Height)
- 解像度は2のべき乗(1024, 2048, 4096)
- ファイル形式はPNG(非圧縮)またはEXR(HDR対応)
- Normal Mapは必ずOpenGL形式でエクスポート(MayaはOpenGL準拠)
6. Maya(Arnold)へのシェーダー接続ガイド【最重要】
エクスポートしたテクスチャをMayaのaiStandardSurfaceに接続します。ここで「Color Space」と「Alpha is Luminance」の設定を間違えると、全てが台無しになります。
完全版:テクスチャ接続設定表
| マップ種類 | Color Space設定 | Alpha is Luminance | 接続先(Arnold) | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| Base Color | Utility – sRGB – Texture | OFF | Base Color | 視覚的な色情報 |
| Roughness | Utility – Raw | ON | Specular Roughness | 数値データ、ガンマ補正厳禁 |
| Metalness | Utility – Raw | ON | Metalness | 0 or 1の値 |
| Normal | Utility – Raw | OFF | Normal Camera(aiNormalMapノード経由) | 法線ベクトル情報 |
| Height | Utility – Raw | ON | Displacement Shader | メッシュの分割が必要 |
| Emissive | Utility – sRGB – Texture | OFF | Emission Color | 発光マップ |
- 「テカテカ」になる: Roughnessマップの
Alpha is Luminanceチェック漏れ(発生率90%) - 「真っ黒」になる: Normal Mapの接続先が間違っている(aiNormalMapノード経由が必須)
- 「色が変」: Base ColorのColor Spaceが「Raw」になっている(正しくは「sRGB – Texture」)
正しいノーマルマップ接続手順
HypershadeでCreate > Arnold > Utilities > aiNormalMapノードを作成します。
Normal Map用のFileノードのoutColorをaiNormalMap.inputに接続します。
aiNormalMap.outValueをaiStandardSurface.normalCameraに接続します。
FileノードのColor Spaceが「Utility – Raw」になっているか必ず確認します。
7. 実践的なワークフロー最適化Tips
レイヤー構造の設計思想
Substance Painterでは、破壊的編集ではなく非破壊レイヤー構造を徹底します。
- ベースマテリアル層(最下層)
- ウェザリング層(汚れ、錆など)
- ディテール層(傷、デカールなど)
- 調整層(色補正、コントラストなど)
- 全てを1つのペイントレイヤーに描く
- 修正不可能な結合レイヤー
- 命名規則のないレイヤー
- マスクを使わない直接編集
パフォーマンスチューニング
- Viewport解像度を下げる: 編集中は2Kで作業、エクスポート時のみ4K
- レイヤー数を削減: 類似効果のレイヤーは統合する
- スマートマテリアルの使用制限: 複雑なプロシージャルは重い
- VRAM使用量監視: Settings > Display > Show VRAM usageで確認
8. よくある失敗パターンと解決策
| 症状 | 原因 | 解決策 |
|---|---|---|
| ノーマルマップが逆に見える | DirectX/OpenGL形式の不一致 | Substance側でOpenGL形式に変更(Green Channel反転) |
| UVシーム周辺がノイズだらけ | ベイク時のPadding不足 | Bake設定で「Dilation」を16以上に設定 |
| Mayaで色が異常に暗い | ACESとsRGBの混在 | Maya側のView Transformを「ACES」に統一 |
| Displacementが効かない | メッシュの分割不足 | Arnold Shape設定で「Subdiv Iterations」を3以上に |
9. 結論:技術とアートの統合がもたらす価値
Substance PainterとMayaの連携は、設定項目が多く複雑に見えますが、「物理的に正しい光の挙動(PBR)」と「色空間(ACES)」という2つの軸を理解すれば、論理的に解決できます。
本記事で解説した設定表とワークフローを、チェックリストとして手元に置いておくことを強く推奨します。特にColor SpaceとAlpha is Luminanceの設定は、100%の確率でトラブルの原因になるため、毎回必ず確認してください。
このワークフローをマスターしたら、次は以下の応用技術に挑戦してみましょう:
- UDIMワークフロー(複数タイルの管理)
- プロシージャルテクスチャの活用
- Substance Designerとの連携
- リアルタイムエンジン(Unreal/Unity)への最適化
制作環境への投資は「時間」への投資
これらの技術的な足回りを完璧に整えるには、知識だけでなく、それを処理できるハードウェア環境も重要です。
もし現在の環境で「プレビューが重い」「ベイクに時間がかかる」と感じているなら、それは単なる不便さではなく、クリエイティビティの損失です。待ち時間はアイデアを冷却し、試行錯誤のサイクルを遅らせます。
DAIV クリエイター向けPC
マウスコンピューターの「DAIV」シリーズは、3DCG制作に特化したスペック構成で、多くのプロスタジオでも採用されています。
- Substance Painter推奨スペック完全対応
- Maya/Arnold最適化済み構成
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- 最大3年間の安心保証
最終更新日:2025年12月

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