「時間をかけて作ったのに、なぜかCGっぽさが抜けない」
「テクスチャもライティングも頑張ったのに、プロの作品と並べると説得力が違う」
3DCG制作、特に背景グラフィックにおいて、多くの初心者がこの壁にぶつかります。私もその一人でした。正直に言うと、最初の作品をメンターに見せたとき、「これじゃゲームのステージ選択画面だね」と言われ、かなりショックを受けました。
本記事では、フルタイムのインフラエンジニアとして働きながら、99時間という制限時間内で制作した「廃墟ライブハウス」の制作過程を公開します。特に重要なのは、制作終盤にシニア・テクニカルアーティスト(メンター)から受けた「現実と乖離している違和感」への指摘と、それを修正したビフォーアフターの記録です。
AIでは生成できない、泥臭い試行錯誤と「プロの観察眼」の秘密を共有します。
プロジェクト概要:「栄光と静寂」を描く99時間
今回の制作テーマは架空のライブハウス「The Backbeat」。かつては大人気バンドが演奏した栄光の場所が、今は静寂に包まれている様子を表現しました。
制作環境とツール
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 制作期間 | 約2ヶ月(実作業時間 99時間) |
| 3Dソフト | Autodesk Maya 2024 |
| スカルプト | ZBrush 2024 |
| テクスチャ | Substance 3D Painter |
| レンダラー | Arnold Renderer 7.2 |
| 後処理 | Adobe Photoshop 2024 |
副業や趣味での制作では、「気づいたら時間だけ過ぎていた」という事態が頻発します。今回はGoogleスプレッドシートでタスクごとの作業時間を記録し、「モデリング40%、テクスチャリング30%、ライティング20%、その他10%」という配分を事前に決めて進行しました。これにより、無駄な作り込みを防ぎ、締め切りを守ることができました。
スケジュールは過密でしたが、徹底した工数管理を行い、なんとか形にしました。しかし、メンターに見せた瞬間、いくつかの「不自然さ」を指摘されました。そして、その指摘内容こそが、初心者とプロの差を決定づける「観察力」の本質だったのです。
プロが指摘した「5つの違和感」の正体と劇的修正ログ
「絵としては綺麗だけど、建築や物理として嘘がある」。これがプロのフィードバックの核心でした。具体的に指摘されたポイントと、どう修正したかを解説します。
1「光の入射」と「壁の破壊」の物理的矛盾
- 演出として夕日を差し込ませるため、コンクリートの壁に大きな「亀裂」を入れていた
- 亀裂の幅は約30cm、そこから直射日光が差し込む設定
- 壁の構造自体は健全なまま
- 「鉄筋コンクリートの壁に、人が通れそうな亀裂が入り、そこから直射日光が入る状況は物理的に稀」
- 「通常、そこまで壁が割れるなら構造ごと崩落(壁貫通)していないと不自然」
- → 壁の上部コーナーを部分崩落させ、鉄筋をむき出しに。瓦礫を配置して説得力を向上
私は「光を入れたい」という演出目的だけで形状を決めていました。しかし、プロは「その形状になった理由(地震、老朽化、事故など)」まで考えます。結果として、単に穴を開けるのではなく、「崩落の痕跡(瓦礫、鉄筋の曲がり、周辺のひび)」を追加することで、リアリティが劇的に向上しました。
2ネオンサインの「ガラス」と「配線」の矛盾
- 看板のネオン管(「ECHO」という文字)が壁から外れかけている演出
- ネオン管自体は割れておらず、形のままぶら下がっていた
- 「廃墟っぽさ」を出すためのオブジェクトとして配置
- 「ネオン管はガラス製。固定金具が外れるほどの衝撃を受けているのに、ガラス管が無傷なのは不自然」
- 「管は割れて、内部の電極やワイヤーだけが残るのがリアル」
- → ネオン管を削除し、「金属フレーム」「固定金具の痕跡」「ぶら下がる配線」のみを描写
この修正により、「破壊の経年変化」が表現できました。ガラスという壊れやすい素材が真っ先に失われ、金属部分だけが錆びながら残る。この時間経過の描写こそが、廃墟の説得力を生み出します。
3床材の統一感不足(セット感の払拭)
- ステージはPタイル、客席はコンクリート打ちっぱなし
- 「バリエーション豊かにしよう」という意図で異なる素材を使用
- 結果として「CGで作ったセット」感が強く出ていた
- 「実際のライブハウスでは、床材は全体で統一されていることが多い」
- 「極端に材質が違うと、現実感よりも作為的な印象が強く出る」
- → 客席側の床も黒塗りウレタン(ステージと同系)に変更。経年劣化で剥がれている表現を追加
私は「色々な素材を使えば豊かに見える」と考えていました。しかし、プロは逆に「統一されたものが経年劣化していく過程」を描くことで、時間の流れを表現します。CG制作において、「足す」より「引く」方が難しく、そして強力なのです。
4小物配置の「意図的すぎる」レイアウト
- 散らばっているビール瓶やゴミが、カメラから見て「綺麗に配置」されていた
- まるで美術館の展示のように、重なりを避け、等間隔に配置
- 「見せるための配置」になっており、空間の自然さが欠如
- 「本当にランダムに捨てられたゴミは、重なり合い、偏りがあり、カメラから見えない場所にも存在する」
- 「今の配置は『カメラのために置かれたゴミ』であり、空間としての説得力に欠ける」
- → Mayaの「MASH(プロシージャル配置ツール)」で空間全体にランダム配置。カメラから見えない位置にも配置
私は「カメラに映る範囲だけを作り込めばいい」と考えていました。しかし、プロは「カメラから見えない床の裏側にも埃がある」という前提で空間を設計します。この「見えない部分への配慮」が、結果として見える部分の説得力を高めるのです。
5ライティングの「きれいすぎる」グラデーション
- 夕日が壁に当たる際、綺麗なグラデーションを作るために単一のArea Lightを配置
- 光が完璧に均一で、「3DCGの教本」のような人工的な印象
- 影の中が完全な黒で、現実の環境光が再現されていない
- 「現実の太陽光は、大気中の埃、窓ガラスの汚れ、空気の揺らぎによって『ムラ』が生じる」
- 「完璧に均一な光は、逆に不自然」
- → Goboテクスチャ、Volume Scattering、複数光源の組み合わせで「光のノイズ」を追加
具体的な修正手法は以下の3つです:
- Gobo(ゴボ)テクスチャ: ライトに「汚れた窓ガラス」のテクスチャをマッピングし、光に不規則なパターンを与える
- Volume Scattering(ボリュームスキャッタリング): 空気中の埃による光の散乱を再現
- 複数光源の組み合わせ: メインの太陽光に加え、微弱な環境光(天空光)を追加し、影の中に「完全な黒」を作らない
私は「グラデーションが滑らかな方がプロっぽい」と考えていました。しかし、プロは逆に「ノイズ(不完全さ)を意図的に加える」ことで、光に生命感を与えます。完璧すぎる光は、CGであることを露呈させてしまうのです。
初心者が即実践できる「歪み」のモデリングテクニック
廃墟感を出すためには、きれいな直線をいかに「自然に崩す」かが鍵になります。今回の制作で多用したMayaのテクニックを紹介します。
Lattice(ラティス)変形によるランダム性の獲得
床に散らばる紙コップや空き缶。これらを一つ一つ頂点移動で変形させるのは時間がかかります。
- ポイント: 制御点をランダムに移動させるだけで、「踏まれて少し歪んだコップ」や「湿気でふやけた箱」が一瞬で作成できます
- 効率化: マスターアセットを複製し、Latticeのパラメータを少し変えるだけで、無限にバリエーションを作ることが可能
- 応用例: ポスターの「めくれ」「波打ち」、缶の「凹み」など、あらゆる「不完全さ」の表現に使えます
回転体(NURBS Revolve)を使ったビールの瓶
落ちているビール瓶は、ポリゴンの押し出しで作るよりも、Create > Curve Tools で断面を描き、Surfaces > Revolve で回転体として作る方が圧倒的に滑らかで修正も容易です。
ガラス素材は厚みがないとレンダリング時の屈折がおかしくなるため、必ず厚みを持たせてモデリングすることが重要です。Mayaの場合、
Edit Mesh > Offset Edge Loop を使い、内側にもう一枚ポリゴンを作ることで、物理的に正しいガラスの厚みを再現できます。
Substance 3D Painterでの「汚れ」の階層化
テクスチャリングにおいて、初心者が犯しがちなミスは「汚れを一枚のレイヤーで描く」ことです。現実の汚れは、以下のような複数の要素が重なっています:
- ベースの劣化: 素材そのものの色褪せ(UV劣化、酸化)
- 堆積物: 埃、泥、油膜など、上に乗っている汚れ
- 腐食: 金属の錆、コンクリートのエフロレッセンス(白華現象)
- 生物の痕跡: カビ、苔、水垢
Substance 3D Painterでは、これらを個別のレイヤーとして作成し、マスク(Mask)を使って「どこにどの汚れが付きやすいか」を制御します。例えば:
- 埃: 上向きの面(Normal Y軸が上)にのみ配置
- 雨だれ: 垂直面(Wall)から下向きに流れるようにGradientマスク
- 錆: エッジ(Curvature)部分を優先的に腐食
この「階層思考」が、プロとアマチュアのテクスチャの差を生み出します。
本格的に3DCGを始めるなら:推奨スペックと必須ツール
今回の制作を通じて痛感したのは、「マシンスペックは妥協してはいけない」という事実です。特にレンダリング時間は、PCの性能に直結します。
推奨PCスペック(2026年版)
| 用途 | 最低スペック | 推奨スペック | プロ仕様 |
|---|---|---|---|
| CPU | Core i5-13400F Ryzen 5 5600 |
Core i7-14700F Ryzen 7 7700X |
Core i9-14900K Ryzen 9 7950X |
| GPU | RTX 4060 (8GB) | RTX 4070 (12GB) | RTX 4080/4090 (16GB+) |
| メモリ | 32GB DDR4 | 64GB DDR5 | 128GB DDR5 |
| ストレージ | NVMe SSD 1TB | NVMe SSD 2TB (Gen4) | NVMe SSD 4TB (Gen4) + HDD保管用 |
制作開始当初、私のPCはメモリ16GBでした。Mayaでシーンを開き、Substance 3D Painterでテクスチャを編集し、Photoshopでコンポジット作業をしていると、OSがフリーズして作業データが消失する事故が2回発生しました。結局、メモリを64GBに増設することで解決しましたが、最初から適切なスペックにしておけば、無駄な時間とストレスを避けられました。
3DCG制作に最適なBTOワークステーション 3選
【マウスコンピューター】DAIV Z7-MVR6
価格:239,800円 (税込)
Maya、Blender、Substance 3D Painterを快適に動かせる、コスパ最強モデル。メモリ32GB標準搭載で、中規模シーンまで対応可能です。
- CPU: Core i7-14700F
- GPU: GeForce RTX 4060 Ti (16GB)
- メモリ: 32GB DDR5
- ストレージ: NVMe SSD 1TB
【ドスパラ】raytrek 4CXVi
価格:349,980円 (税込)
GPUレンダリング(Arnold GPU、Redshift)を本格的に使うなら、VRAM 12GB以上が必須。RTX 4070搭載で、レンダリング時間が劇的に短縮されます。
- CPU: Core i7-14700KF
- GPU: GeForce RTX 4070 (12GB)
- メモリ: 64GB DDR5
- ストレージ: NVMe SSD 2TB (Gen4)
【FRONTIER】FRGBZ790/WS2
価格:549,800円 (税込)
プロダクション環境を自宅に。RTX 4090搭載で、パストレーシングも実用レベル。映像制作やVFX志望者向け。
- CPU: Core i9-14900K
- GPU: GeForce RTX 4090 (24GB)
- メモリ: 128GB DDR5
- ストレージ: NVMe SSD 4TB (Gen4)
💡 まとめ:E-E-A-Tを高めるのは「観察」と「理由」
99時間の制作とメンターからのフィードバックを通じて学んだのは、ツールの操作方法よりも「そのオブジェクトがそこに在る理由」を考える重要性でした。
- なぜ壁が壊れているのか?(物理的理由)
- なぜネオンがその状態で残っているのか?(素材的特性)
- なぜドラムセットが放置されているのか?(ストーリー)
これら一つ一つに答えを用意することで、CGは単なる「データ」から、物語を語る「作品」へと昇華します。
次のステップ:
この記事を読んだあなたが、次に取るべき行動は以下の3つです:
- PCスペックの見直し: メモリ32GB未満なら、今すぐアップグレードを検討してください
- 「Why(なぜ)」の習慣化: 配置するオブジェクト一つ一つに「なぜそこにあるのか」を問いかける
- プロの作品の観察: ArtStationやBehanceで高評価の作品を分析し、「何が違うのか」をメモする
今後もTech Otaku Labでは、エンジニア視点での3DCG制作の技術検証とノウハウを公開していきます。一緒に、技術とアートの境界を超えていきましょう。

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